哲学堂公園を巡る。

哲学堂公園です。
何度か来ていますが、何か難しいと感じて、全体をじっくり見たことはありません。この地はかつて、和田山と呼ばれ、現在中野区松が丘の、平地と台地と川で出来た傾斜の土地です。
和田山というのは、哲学堂公園の地は、源頼朝の重臣である和田義盛の城址であったからと言われています。
哲学堂公園は、明治37年(1904)に哲学者で東洋大学の創立者井上円了によって、哲学世界を視覚的に表現し、哲学や社会教育の場として整備された特異な公園です。
井上の死後、昭和19年(1944)に東京都へ寄付されて都立公園となり、その後昭和50年(1975)に中野区へ移管されて、現在の中野区立公園となっています。

哲学堂公園に入るには「常識門」で、俗世の常識を振り払って園内に足を踏み入れることになります。
私たちが日常住み慣れている世界は、いろいろなものが入り交じった多元世界で、そうした多元世界で慣れ親しんでいる知識が常識で、その常識には、さまざまな偏見や思い込みや欲望が付着しています。そこで常識門から入って、まずは、髑髏庵で、これら常識に付着している塵や垢を取り払わなくてはいけません。

そして、その先には「時空岡(じくうこう)」という空間が広がります。そこには、お寺の本堂のような「四聖堂」、朱塗りの塔の「六賢台(ろっけんだい)」などが建っています。
▼四聖堂【明治37年4月建立】

[木造平屋建・方形・桟瓦葺・一重]
本堂に東洋哲学の孔子と釈迦、西洋哲学のソクラテスとカントの「四聖」を世界的四哲人として祀るために建立されました。
三間四面の小堂で四面とも正面。中央には哲学の起点、基礎となる2つの象徴として、心即ち精神は円形で光るものとして電球、物すなわち物質は心を汚すものとして香炉がおかれています。これは、心が物欲で汚されても修養を積めば清浄な心は失われないことを表していて、内部、天井中央に装飾額があり、釈迦涅槃像(和田嘉平作)が堂内に安置してあります。
▼六賢台【明治42年11月建立】

[木造六角塔・外観2層・内部3層・相輪・一重・二重・桟瓦葺・外部板張]
ここに東洋的哲学人として、日本の聖徳太子・菅原道真、中国の荘子・朱子、印度の龍樹・迦毘羅仙の六人を「六賢」として祀ってあります。
赤色塗り、六角形の周囲六間の建物で、四聖堂の西に建っています。六賢の肖像を各面に扁額として掛け、名称を鋳刻してありましたが現在は見ることはできません。屋根の上に相輪と九つの法輪(九輪)があり、最上部に宝珠を付け屋根の棟瓦の一端に天狗がついています。
▼宇宙館【大正2年10月建立】

[木造平屋建・方形・桟瓦葺・二重・出隅に切妻ポーチ]
哲学が宇宙の真理を研究する学問であるとの観点からこの名がついています。内部に皇国殿という8畳敷の1室を哲学の講習の講義室が設けられています。また、堂内に聖徳太子立像(和田嘉平作)が安置され、屋根上部の棟部分に烏帽子がついています。
また、建物脇に幽霊梅(ゆうれいばい)があります。
元々は公園の創設者である井上円了博士の自宅の庭に植えられており、ある時、梅の木の下に幽霊がいると騒ぎになったことから、幽霊梅と呼ばれるようになったそうです。

この「時空岡」の南の低地部は「唯物園」、「唯心庭」と呼ばれる庭園になっています。自然の立地や崖を巧みに利用して哲学的な空間や概念を表しています。
四聖堂脇の石造りのを下っていくと行かれるのですが、行った日は、雪で通行禁止でした。
しかたないので、少し周りを、雪を踏みしめながら散策していたら、間違って、「唯物園」を歩いていました。
哲学には万物の存在、あらゆる現象を物質を根拠に据える「唯物論」と、心の働きを基本に考える「唯心論」の大きく分けて2つの立場があるとのことです。
それを表現したのが、妙正寺川沿いにある「唯物園」と「唯心庭」です。
唯物園で目につくのはタヌキの石像「狸灯(りとう)」です。

タヌキも人間もだまし、偽り、嘘をつくことが得意だが、そんな悪徳の中にも光り輝くものがあるという「人生観」を表わしているのだそうです。腹部に灯台が仕込まれています。
川沿いにさらに進むと、「唯心庭」です。

明るく開放的な唯物園とは対照的に木の影に少し薄くらく覆われた場所に「心字池(しんじいけ)」があります。池の中心に浮かぶ「理性島(りせいじま)」は人間の心の奥底の本性は理性であると説いています。

鬼灯の背中と頭です。

その島上に立つ鬼の石像が「鬼灯(きとう)」です。鬼が灯籠に押さえつけられ苦しそうにしている様子が、良心で悪念を押さえるようにと願う人の心「人心観」を表していると説明されていました。

菖蒲池を回って、四村橋の出入り口に出ようと思ったのですが、閉ざされていました。引き返して、かつては図書館だった「絶対城」へ。絶対城から理想橋をわたり宇宙館へ出ました。

そこで、「哲理門(てつりもん)」に行きました。哲学の森を行くとき、その入り口に当たるのがこの「哲理門」だということです。一般の人は常識門から、哲学を深く学ぶ人は、この「哲理門」から、になるのでしょうか。
通称・妖怪門です。屋根瓦に「哲」の文字が入っています。


外に廻って見ると、門の両側には天狗と幽霊の彫刻物が置かれていて、右側は天狗で物質界の、左側には幽霊で精神界の、それぞれ不思議・不可解を表しています。
もと、この地に天狗松と幽霊梅があったことにちなんでいるとともに、物質界、精神界に存する不可思議の象徴とみなして、置かれているようです。
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